糖尿病や肥満症治療薬の進歩は目覚ましく、多種多様な製剤が誕生しています。ここでは従来ある治療薬に加え、新しい治療薬や今後期待されている治療薬について説明します。

糖尿病治療薬

以前であればインスリン分泌を促進させるSU剤(スルホニルウレア剤)やインスリンの効きを改善させるチアゾリジンといった薬が主流でありましたが、体重が増加したり、自身のインスリン分泌の力を低下させてしまい早期にインスリン注射の導入が必要になってしまうケースもありました。

現在では、血中のブドウ糖を尿中に排泄させることで血糖を改善させるSGLT2阻害薬や内因性インスリン分泌の調整に加え、食欲を抑えることで血糖を改善させるインクレチン製剤であるGLP-1受容体作動薬により、より良い血糖コントロール・合併症予防が可能となっております。また、以前から使われている肥満によりインスリンが効きにくい状態を改善させるメトホルミンは現在でも治療薬として第一線で活躍しています。

その他にも2剤が組み合わさることで相乗効果により血糖が改善する合剤やインスリン製剤でもGLP-1受容体作動薬との合剤、また週1回でなども出てきています。

ここでは糖尿病治療薬としてよく使われるタイプの薬剤やインスリン製剤などについて説明したいと思います。

01ビグアナイド薬

古くから使用されている糖尿病治療薬で、肥満によりインスリンの効きが悪くなった状態(インスリン抵抗性)を改善させるお薬です。肝臓での糖の産生を抑え、筋肉での糖の取り込みを増やし、腸管での糖吸収を抑制する効果があります。現在でも肥満合併2型糖尿病の第一選択薬として使用頻度の高い薬となっています。副作用として下痢や便秘などの消化器症状が多いですが、徐々に改善してくることがほとんどです。変化がなければ減量や中止、他薬剤へ変更が必要になります。

02DPP-4阻害薬

腸管から分泌されるホルモンにGLP-1やGIPと呼ばれるホルモンがあり、総称してインクレチンと呼ばれています。このインクレチンにはインスリン分泌を調整し血糖を改善する効果があります。しかしインクレチンは分泌後、速やかにDPP-4と呼ばれる酵素によって分解されてしまいますが、このDPP-4阻害薬はDPP-4の効果を阻害することでインクレチンの効果を長引かせ食後血糖を改善させます。低血糖リスクが低く軽度の糖尿病患者さまに使用することができ、高齢の方にも使用しやすい薬剤となっています。週1回のタイプもあり、安定している方は週1回に切り替えることも可能です。こちらも副作用として腹部膨満や下痢、便秘などの消化器症状が出る場合があります。

0303 GLP-1受容体作動薬、GLP-1/GIP受容体作動薬

前述したインクレチンであるGLP-1を外から大量に投与することで血糖降下作用がより強く起こります。また、GLP-1は直接もしくは間接的に摂食中枢に働きかけることで食欲を抑える効果があります。これらの作用により血糖及び体重コントロールを可能とします。副作用としてはやはり嘔気、腹部膨満感、便秘、下痢などの消化器症状が出ることがありますが時間経過と共に落ち着いてくることが多いです。低血糖は起こしにくいですが極端な食事制限をすると起こす可能性があるため専門医と相談しながら治療する必要があります。

また、最新の治療薬としてGLP-1/GIP受容体作動薬が登場しております。両方の受容体に働くことで相乗効果により強力な食欲抑制効果が得られます。GIPには脂肪燃焼効果や制吐作用があると言われており、GLP-1受容体作動薬よりも副作用が少なくより減量効果を得ることができます。
基本的に週1回ご自身で打つ注射薬になりますがインスリン製剤とは別ものになります。また、効果はマイルドになりますが内服のタイプもございますので注射薬が苦手な方はご相談ください。

04SGLT2阻害薬

ブドウ糖は一旦腎臓から尿へ分泌されますが、ほとんどが再吸収され血中に戻ってきます。その際にSGLT2というとトランスポーターを介して再吸収されますが、ここの働きを阻害することでブドウ糖を強制的に尿へ排泄し血糖を改善することができます。ブドウ糖を強制的に排泄するため減量効果も認めます。減量効果などにより心機能、腎機能に保護的に働くことも大規模臨床試験で明らかになっています。

05長時間作用型インスリン/GLP-1受容体混合製剤

最近では、長時間作用型のインスリンとGLP-1製剤が合わさった製剤が出てきています。DPP-4阻害薬+長時間作用型インスリンを使用している方で病状が落ち着いている方や少し食欲が上がっている方はこちらに切り替えられることができる場合がございます。

内服なしに注射製剤のみでコントロールが可能になることもありますので診察時にご相談ください。

06その他

①週1回インスリン製剤
今まで毎日打たなければいけなかった長時間作用型インスリンですが、もう少しすると週1回インスリン製剤が誕生します。毎日打たなければいかない方や打ち忘れによって血糖コントロールがうまくいかない方は変更することでより安定したコントロールが目指せる可能性があります。

②GLP-1/GIP/グルカゴン受容体製剤などのトリプル受容体作動薬
少し先になりますが現在最も強い製剤であるGLP-1/GIP受容体作動薬よりもさらに強いトリプルアゴニスト製剤の開発も進んでおり今後の糖尿病・肥満症治療に期待されています。

③週1回インスリン/GLP-1受容体作動薬混合製剤
さらに先にはなってしまいますが、①で述べたものと週1回GLP-1の混合製剤も開発中です。

肥満症治療薬

今まで肥満症治療薬はマジンドールのみでしたが、新たにGLP-1受容体作動薬が条件付きで使用可能となりました。また、一部の漢方薬などで減量効果があり、肥満に合併する2型糖尿病の方にはGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬を使用することが可能ですので専門医と相談しながら治療法を選択してください。

01マジンドール

今まで日本で唯一肥満症に使用が可能な治療薬でしたが、現在はほぼ使用されていないのが現状となります。脳内にある摂食中枢に働きかけることで食欲抑制効果を得ることができますが、依存性の問題などで使用には注意が必要となります。

02抑肝散・防風通聖散など漢方薬

抑肝散は日頃のストレスや空腹時のイライラなどで過食になってしまう方に効果のある漢方薬です。また、気持ちを落ち着け入眠もよくしてくれるため寝入りが悪いような方にも良い適応となります。マイルドなものであることや漢方薬ということもあり導入しやすく、合わなければすぐに中止することができますので減量治療の手始めに適しています。
防風通聖散は減量効果が低いですが便秘やむくみが強いような方に効果があります。

03GLP-1受容体作動薬/SGLT2阻害薬

糖尿病治療薬で説明した新しいタイプの治療薬で肥満症に合併した糖尿病の方に使用ができます。また、GLP-1受容体作動薬は肥満症に対して保険適応となったため使用が認められている施設での使用が可能となりました。しかし、痩せたい人なら誰でも処方してもらえるものではなく、高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを有する肥満症があり、かつ食事療法と運動療法を行っても十分な効果が得られない人のうち、以下のいずれかに該当する方が対象となります。

肥満に関連する健康障害とは以下です。

保険での使用にかなり制限があるため検討される方は相談の上決めていく必要があります。

04その他

今後、使用の安全性が確認されれば肥満症でのGLP-1受容体作動薬の保険適応緩和やGLP-1/GIP受容体作動薬使用が可能になるかもしれません。引き続き注視していきたいと思います。